将棋棋士 遠山雄亮のファニースペース

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【厳選次の一手も】コンピュータ将棋選手権2018、戦法の流行について

今回は、コンピュータ将棋選手権2018における流行と合わせて、次の一手も掲載します。

戦法の流行は、プロの将棋とコンピュータ将棋がリンクしつつあります。

 

前回の記事

 

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全棋譜はこちらからご覧いただけます。

第28回世界コンピュータ将棋選手権 ライブ中継

 

 

戦法の流行について

コンピュータ将棋選手権での戦法の流行は

  • 角換わりが増えた
  • 角換わりを拒否した雁木も
  • 矢倉は希少
  • 横歩取りが減少
  • 振り飛車はHoneyWaffleの職人芸に

 

居飛車の流行にはこういう流れがあります。

  • 青野流が猛威を奮い、定跡の搭載でリードを奪おうとするソフトが増えた
  • 後手が対抗策を見いだせず、横歩取りを回避して2手目に△8四歩と突く
  • 2手目△8四歩に角換わりを採用するソフトが多い。
  • 2手目△8四歩に矢倉はほぼ指されない。相掛かりは指される

 

実はこれ、いまのプロ棋界と同じ流れです。

コンピュータ将棋のトレンドと人間のプロのトレンドに密接な関係が生まれつつあります。

 

 

横歩取り青野流

 

横歩取りで青野流の定跡を搭載するソフトによっては、下記局面まで定跡のようです。

(以下、色付きは実戦の指し手)

 

 

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この辺りまで進んだ対局が何局もありました。

総じて先手が勝っていましたが、決勝リーグでは後手が勝ったこともあり(それによって優勝が決まる、大事な一番だった)、搭載された定跡で進んだからといって、一概にそれで勝負が決まるわけでもありません。

 

ただやはり定跡で決まるのは面白くないと考える開発者が多く、後手が2手目に△8四歩と突いて横歩取りを避けていました。

 

 

 

相早繰り銀が流行。厳選次の一手も!

後手が2手目に△8四歩と突くことで角換わりが増えました。

プロでは腰掛銀が多いですが、ソフトは早繰り銀を愛用します。

その早繰り銀でも特に相早繰り銀は定跡を搭載しているソフトが多くあり、指定局面のように進んだ対局がいくつもありました。

 

これが一つの指定局面で

 

 

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49手目▲8四角成まで定跡で進んだ対局が2局ありました。

 

 

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この図は、2位だった▲PALと△大合神クジラちゃん2の対戦です。

下記記載の第4図は76手目の局面。後手が粘りに出ています。

その粘りを許さない、先手の面白い攻めを考えてください。

 

 

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全=成銀

 

この変化は先手の2戦2勝。

第2図はプロ同士ではあまり出ていませんが、先手が望めば誘導できるので、今後出現するかもしれません。

 

さて第4図の正解は、▲4一金です。△同金▲同成銀と一歩前進。

成銀を近づけることで後手に受けるスペースを無くしました。

かなり珍しい手筋と言えそうです。

 

 

相早繰り銀からもう一問。

▲Apery-△名人コブラ

角を逃げない3手一組の攻めを考えてください。

 

 

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相早繰り銀はあまり実戦例が無く、見慣れぬ戦いになることが多く、それ故に見たことのない手筋が多く出現します。

この対局も見たことのない手筋の連続でした。

 

この場面で▲2三歩成△3四金▲3二とが面白い攻めです。

角を捨てても十分にお釣りがくると見ています。

△3四金▲2二とは△2五歩で飛車道を止められてしまいます。

▲3二となら飛車道を止めるには角を手放すよりありません。

実戦は△2三角▲2一と△8五桂▲2二とと進行。

先手が駒損ながら、と金の威力も大きいです。

 

ちなみにこの対局で珍形が出現しました。

 

 

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中央にこれだけ駒が密集しているのは、あまり見たことがありません。

 

今後、プロの対局でも早繰り銀が増えるでしょうか。

名人戦では、第2局に羽生竜王が角換わり早繰り銀を採用していました。

 

 

振り飛車について

コンピュータ将棋で振り飛車といえばHoneyWaffle。

決勝リーグに残って一人気を吐きました。

 

残念ながら結果は8位でしたが、存在感を示しました。

その勝局から次の一手を2題。

▲妖怪惑星Qhapaq-△HoneyWaffle

 

先手が堅陣をバックに攻め込んだところ。

常識的には、▲3二成銀、▲1一香成、▲3二飛、辺りが候補手ですが。

 

 

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全=成銀

 

 

HoneyWaffleの振り飛車は勿論素晴らしい指しまわしなのですが、序盤で損をした対局がいくつかありました。

コンピュータ将棋は居飛車全盛で振り飛車の定跡が進んでおらず、その辺りが強化されれば、振り飛車党のチャンピオンが誕生しても不思議ではないと思います。

 

さて第7図で先手は▲1二香成と捨てました。香を取らないのが見たことのない手筋。

以下△同香▲3二飛で、次に▲1二飛成で香を取りながら後手の飛車をつかまえるのが狙いです。

▲1一香成なら香交換ですが、△同飛で飛車にさばかれてしまいます。

 

うまい攻めでしたが、先手の猛攻をしのぎ、後手のHoneyWaffleは優位に立ちます。

迎えた終盤戦。穴熊に見事な一撃を食らわせました。

 

 

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平凡に攻め合うと穴熊の遠さが生きます。

普通は△7七香成ですが、▲同桂で駒を渡さずに詰めろを続けるのが難しいです。

 

そこで△8八香が好手。穴熊に突き刺さる香打ちです。

△8九香成からの詰めろになっています。

この香を取るのも、▲同玉は△7九馬、▲同金は△7七香成、▲同銀は△7八香成でそれぞれすぐに受けなしになります。

 

現状の後手玉は危ないながら、まだ詰みはありません。香なら渡しても大丈夫。

ということで、△8八香の好手で一手勝ちとなりました。

 

 

将棋の可能性を広げるコンピュータ将棋

コンピュータ将棋の対局を見ていると、将棋の可能性に気付かされることが多くあります。色々な戦法における指し方。終盤での鋭い攻め。

まだまだ発展するコンピュータ将棋、今後も注目して見ていきたいと思います。

 

 

それではまた