将棋棋士 遠山雄亮のファニースペース

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第4回電王戦第2局 人工知能との本気の対峙

これぞ電王戦、という展開でした。

永瀬六段が有利になったのでは、と思ったところでの角不成、そして終局。

呆気にとられて観ていました。

 

Seleneほどの強いソフト、そして素晴らしい開発者の方がおかしたまさかのミス。想像を絶するほどの研究量でそれを発掘し、思わぬ形で表した永瀬六段。それがソフトの弱点を露呈させる局面での披露と、色々なことが重なりあい、奇跡のようなシチュエーションでした。

 

永瀬六段の研究はその一端を見聞きしていましたが、鬼気迫るものがありました。危なくなったらこの弱点を突けば勝てる、という悪魔の囁きは何度も聞こえたことでしょう。その中で準備に準備を重ねるのはなかなか出来ないこと。棋士人生というより、人生をかけて取り組んでいたように思います。

 

一方、そんな永瀬六段ですら練習ではSeleneにかなり負かされたようです。Seleneの強さを肌で感じ、敬意と危機感によって生み出された準備であることは想像に難くありません。他の出場者も同じ思いでしょう。

開発者の西海枝さんのことは電王戦に出場が決まってから経緯等を知り、素晴らしい才能を持ったプログラマーであることを再認識しました。

 

西海枝さん、永瀬六段と、煌めく才能を持った同士が人間と人工知能という立場に別れて本気で対峙する。こんな分野が他にあるでしょうか。

電王戦は人間と人工知能が本気で対峙する世界で唯一の場、とは言いすぎでしょうか。

 

さてその△2七同角不成の局面でSeleneが反則負けとなりましたが、形勢はどうだったのか。ニコ生画面上のやねうら王(2014年ver)、Seleneは先手+500程度だったとのこと。他のソフトも大体先手有利を示していました。

しかし人間の見解は逆で、永瀬六段も現地検討陣も後手有利を示していました。

ではどちらが正しかったのか。結論から言うと人間が正しかったようです。

 

 

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まずは問題の△2七同角不成の局面。ここから▲同玉△1七香成までは必然。そこで▲2六玉か▲3七玉かに別れます。

▲3七玉の方から見てみます。以下△2五桂▲2六玉△1四桂▲同と△同銀

 

 

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この局面は必至形。▲1五歩と受けても△3七角▲同金△1六成香▲同玉△1七桂成▲2六玉△2五銀と、詰将棋のように綺麗に詰みます。▲1五歩以外も受けはありません。

 

では△1七香成に▲2六玉はどうか。以下△1四桂▲同と△同銀と進みます。

 

 

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この局面も△1五角が受けづらく、▲1五歩には△同銀▲同玉△1四歩から手数は長いですが下段飛車が活躍して詰みとなります。

詰みを逃れるには▲1八香しかありませんが、△1五角▲1七玉△4八角成で後手勝勢となります。

 

 

いずれも長手数ながら一直線の変化で、プロならば10分あればある程度見通しがたつでしょう。しかしコンピュータにとって難儀する局面で、直線の読みがそこまで深くない弱点が影響しています。

上記の手順のように肝だけを取り出せればそこまで長手数ではありませんが、▲7六角などの無駄な王手や、詰みの中で無駄な合い駒が出来て、負けを遠ざける手段が多いことで読みきれないようです。

加えて▲2六玉と逃げて▲1八香の変化は先手玉がすぐに詰むわけではありません。終盤で「詰みと詰めろが混合する」とコンピュータはより判断を誤りがちになると聞きます。

 

△2七同角不成の局面は、思わぬ不成に対応できない&長手数の読みに弱い、というコンピュータの弱点を同時についた、奇跡的な局面だったわけです。

 

と書いてくるとコンピュータが弱いと思われがちですが、勿論そんなことはなく、中盤の始まりからは人間を上回る構想ばかりでした。

一例として、この将棋は2筋を交換すると銀冠に組まれる→▲2四歩は指さないほうがいい、という条件で進んでいたのですが、後手が△7三桂と跳ねた瞬間はその条件が崩れていました。

こういう人間の先入観を突くような場面でコンピュータの判断は正確です。▲2四歩と仕掛けた局面は先手のSeleneが少しリードを奪っていたように思います。

 

人間が本気で人工知能と対峙している電王戦、第3局は28日(土)に行われます。私は現地函館の大盤解説会に出演します。お近くの方はぜひ足を運んでいただければと思います。

残り3戦も、煌めく才能を持った二人による素晴らしい戦いを期待します。

 

 

それではまた