将棋棋士 遠山雄亮のファニースペース

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将棋の上達と「言語化」の深い関係

先日、永瀬拓矢九段が王将戦七番勝負第7局の対局後にYouTube配信に出演されていました。私もリアルタイムで拝見したのですが、その中で永瀬九段が「将棋を理解するためには言語化が大事」という趣旨を繰り返し強調されていたのが、非常に強く印象に残っています。

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トップ棋士である永瀬九段がそこまで言語化にこだわる理由は何なのか。その言葉をきっかけに、将棋と言語化の関係について改めて考えてみました。

符号だけでは覚えられない

私たちプロであっても、符号の羅列で定跡や研究内容を記憶し続けるのは困難です。
例えば「▲7六歩、△3四歩、▲2六歩・・・」と手順だけを追っても、それだけでは脳内に定着しません。
そこに言語化が噛み合わさってこそ、知識は生きた記憶として機能します。

わかりやすい例が「前例」という概念です。「これは以前の藤井聡太ー伊藤匠で現れた局面だ」と覚えておくだけで、その形に関するかなりの範囲の定跡を網羅できます。また、そうした情報がフックとなり、自分自身の研究を脳内から引き出すことも可能になります。

言ってみれば、言語化は記憶の「索引」なのです。

棋譜並べも詰将棋も言語化が重要

将棋の勉強法である棋譜並べは、プロや強い人の棋譜を実際に並べて、手の意味を感じ取る勉強法です。

棋譜を並べていると、自然と「なぜここでこの手を指したのか」を考えるようになります。それはまさに読んで字のごとく、手の意味を言葉に置き換える作業です。意識せずとも言語化の訓練をしているわけで、棋譜並べが古くから有効な勉強法とされている理由の一端がここにあるように思います。

一見、純粋な読みの作業と思われがちな詰将棋も、強い人ほど言語化を介して解を得ているケースが多いはずです。

例えば「この形はおそらく玉がこの辺で詰むな」「角を捨てる手が急所になりそうだ」というように、まず大まかな見当をつけてから読みを進める。これも一種の言語化です。闇雲に手を読むのではなく、言語化によって読みに方向性を与えているのです。

生成AIが言語化の重要性を再認識させた

例を挙げればキリがありませんが、将棋は言語化と強く結びついた営みです。そして最近、この事実をより強く実感するようになりました。きっかけは生成AIの発達です。

生成AIは自然言語、つまり私たちの言葉を入力として受け取り、答えを出します。
将棋の研究や勉強にGeminiなどの生成AIを活用しようとすると、将棋のことを符号ではなく言葉で伝える必要があり、そこで言語化の力が試されます。

自分の考えを正しく言語化できれば、生成AIを壁打ちの相手として、あるいは新たな視点を得るためのコーチとして活用できる可能性が飛躍的に高まります。

今まさに私はその試行錯誤の最中にいます。将棋を言語化して生成AIに与えることで何ができるのか、どう棋力向上に繋げられるのか——。
まだ実験段階ですが、NotebookLMを活用した取り組みには手応えも出てきています。
このことは、また改めて記事としてまとめようと思います。

 

それではまた