将棋棋士 遠山雄亮のファニースペース

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電王戦振り返り(番外編) 藤井聡太四段とPonanza

藤井聡太四段とPonanzaについて表に出さずにいたことがあります。
様々な記事で本人が語っていることもあり、問題ないと判断して記すことにしました。
最近各所で、「藤井聡太四段が将棋AIを取り入れている」とお話している背景もこれで明らかにすることが出来ます。
 

ネット将棋で指された衝撃の一手は、藤井聡太さんが指したものだったのか?!

さていきなりですが次の一手を。
将棋倶楽部24で私が指した将棋です。後手が私。
勝ったのでは、と思ったこの局面で強烈な一手がありました。
 

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圭=成桂 全=成銀
正解は末尾に
 
 
2年前、将棋倶楽部24に登場する強い人(匿名)がいて注目していました。
ある時、その人は早い時間にしか登場しないことに気が付き、もしやかなり若いのでは(中学生?)、もしや藤井聡太さんではないか?!と思い始めました。
 
奨励会員からもそんな話を聞いてからはスマホ版の将棋倶楽部24アプリで棋譜検索をして棋譜を見ていました。
私自身も何局か指す機会を得ましたが、残念ながら一度も勝てませんでした。
冒頭の図もそのうちの一局で、棋譜を保存してあったもの。
正解は末尾に記しますが、強烈な一手を食らってその終盤力の確かさを知りました。
 
将棋界隈では当時話題になっており、皆さん挑んでいたようです。昔から本当に強い人が表れるとプロは血が騒ぎ挑むものです。
2年前の藤井聡太さんらしき人はまだ序盤にスキが多く、強い人(記事には佐々木勇気六段も挑んだとあります)に作戦負けからそのまま押し切られる将棋も散見されました。
 
そうして迎えた2015年12月。
電王トーナメントを制し、電王戦を控えるPonanzaが将棋倶楽部24に参戦しました。
将棋倶楽部24の猛者達が挑むもPonanzaは連戦連勝。結局69戦全勝で幕を閉じました。
その中には藤井聡太四段らしき人も挑戦しており、興味深く見ていました。
 
この記事でPonanzaに負けたと藤井聡太四段が語っています。将棋AIとの付き合い方についても記載されています。
2018年9月追記、残念ながら記事が削除されてしまったようです。
 
Ponanzaに負けてから、藤井聡太四段らしき人は将棋倶楽部24に表れなくなりました。
残念な思いでしたが、約半年後に久しぶりに表れて、ワクワクしながらその棋譜を見ました。
すると驚いたことに、まだプロ棋戦でもあまり指されていなかった対矢倉居角左美濃急戦など、当時はまだマイナーだったPonanzaと似た序盤戦術を取り入れていたのです。
おそらくPonanzaに負けたことでその序盤戦術や感覚を取り入れることに注力していたのでしょう。
 
この頃から序盤戦術が洗練されてよりスキがなくなり、将棋倶楽部24でも強豪を序盤から翻弄するようになっていました。
そして藤井聡太さんは、この時期から参加した三段リーグで13勝5敗の成績をとり、プロ入りしました。
 
難関の三段リーグを1期で抜けた原動力の一つは、将棋倶楽部24でPonanzaと出会い、その力を自身に取り入れたことで間違いないでしょう。
私がTV等で藤井聡太四段が将棋AIの力を取り入れているとお話しているのは、こういう背景があるのです。
「電王戦によって新たなスター棋士が生まれた」というのも各所でお話していることで、電王戦によってPonanzaという将棋AIのスターが生まれ、その存在が藤井聡太四段を強くさせたのです。
 

将棋に華を感じさせる詰み

さて冒頭の局面。
 

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圭=成桂 全=成銀
 
正解は▲6二銀です。
あまりに強烈な一着で驚きました。これでどうやっても後手玉は詰んでいます。
この手には、詰将棋が得意というのとはまた違った、将棋における「華」を感じさせられました。
 
参考までに実戦の進行を。
△6二同金▲6一金△同金▲同成桂△同玉▲2一竜△5一歩
 
 

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▲5一同竜△同玉▲5二銀△同玉▲5三金△4一玉▲5二角△3一玉▲4二金△2一玉▲3二金
 
 

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ここで投了しました。以下は△同玉▲4三角成△2二玉▲3三銀成△1三玉▲2三金まで。

竜や金銀を豪快に捨てて7一から1三まで追い掛け回して25手かけての詰み。

あまりに鮮やかな詰まされ方に、負けた悔しさよりも感動を覚えたことを記憶しています。

 
 
最近藤井聡太四段らしき人は将棋倶楽部24に登場していませんが、プロ公式戦を将棋連盟ライブ中継アプリで観戦出来ます
そこで見せる終盤力には、この▲6二銀のような華を感じます。私自身もまた対戦してその終盤力を体感したいものです(心のどこかでは、体感せずに勝ちたいと思っています(笑))。
 
なお将棋倶楽部24では匿名性が大切なので、藤井四段のHNは詮索しないでください。そういう神秘性も、この情報化社会では美しいと思います。
 
 
それではまた