将棋棋士 遠山雄亮のファニースペース

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詰将棋を解く時の脳の使い方

先日、若島正著「盤上のファンタジア」という詰将棋作品集を解いていると書いたところ、業界内で意外と反響がありました。

 

詰将棋が解ける時 

その作品集の中の問題で、合計10時間以上苦しんだものがありました。
問題の途中図に以下のような部分図が発生します(ネタバレを防ぐため、一部の駒は除いています)。

 

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ここで▲7二銀打と攻めると、非常に際どいのですがどうしても詰みません。
この図に至るまでの手順もとても複雑。そして総計で10時間以上経ったある時、▲8二銀と打つ手を発見しました。
6一の銀も取られますし、不利感のある手です。
ですがこの手が妙手で、以下は守備馬の只捨てなどを経て17手程度かかって収束します。

この▲8二銀に辿り着いた時、守備馬の只捨ても含め、その後の17手が瞬く間にわかりました。
10時間以上分からなかったのに、1手(▲8二銀)が見えたことで何故一気にその後の全てが分かるのでしょう。

 


そもそも詰将棋を解く時にどういう考え方をするか、ということから考えてみます。

 

私の場合、まずはぼんやり問題を眺めることから始めます。
すぐに解ける簡単な問題は、その段階で答え(と思われる一本の手順)がパーーっと見えます。
まるで答えが降ってくるような感覚です。

 

難しい問題の場合、感覚的には解けないので、樹形図を頭に描いて有力な筋を追っていきます。
上記の問題は樹形図が広がっていたため、この部分図だけではなく、樹形図の枝を追っていた(詰まない変化を考えていた)時間も多くありました。
そして何度かこの部分図を考えて、やっと▲8二銀に気が付きました。

 

簡単な問題でパーーっと答えが見えたり、▲8二銀が見えたら残りが一気に分かる、これは同じ現象です。
どうしてこういうことが起こるのでしょうか。

その問題を解いたことがある、もしくは最後の詰まし方が似た問題を解いたことがある。

これも時折あることで、それは記憶から手順を引っ張ってきて解いたといえます。
しかし▲8二銀からの手順は妙防も含まれていて、今までに見たことのない詰まし方でした。
知識ではないとすると、一体どうしてなのでしょうか。

 

脳科学的な見地より

このことを以前脳科学者の方に聞いたところ、無意識下で読んでいる手が意識下に表れたからではないか、とのことでした。
つまり▲8二銀以下の変化は頭の中で全て考えていたので、意識下に置かれた時に答えが降ってくるように感じるようです。
簡単な問題の場合、眺めている間に無意識下で手を読み、すぐに正解順が意識下に引っ張り出されたため、答えがパーーっと出てきたように感じるようです。

 

一般に置き換えていうと、夕食時にお店でメニューを眺めていて、『ほっけ定食』を選んだとします。
意識下ではなんとなく選んだようでも、無意識下では
「昨日は肉だったから今日は魚かな」
「最近太り気味だからヘルシーに」

「今日から北海道に旅行で行くし」
といったことを考えていて、意識下で『ほっけ定食』を選んだ、ということです。
良い例えか、自信はありません。

 

 

ちなみに同じ脳科学者の方には、人間の脳のCPUでは本来そんなに手を読めないはずとも聞きました。
その辺りは脳の仕組みで分からないことが多い、脳の神秘性、ということもあるようですが、CPUが小さくても並列計算(同時に計算すること)に理由があるのでは、と仮説されていました。

 

また盤面を眺めることは、脳を最大限使うために必要とも聞きました。
眺めずに頭の中に盤面を浮かべて考えると、盤面を覚える分(メモリを取られて)考える能力が落ちるとのことです。

 

脳の解明に将棋も一助に

将棋を通じて人間の脳の仕組みや動き方を知るというプロジェクトは、数年前に集中的に実験が行われ(私も参加しました)、今もそのデータを元に様々な研究が進められています。

www.brain.riken.jp

脳の解明に少しでも将棋が貢献できたら嬉しいことです。

 

私自身も興味のある分野で、今後も情報を追いかけたり、脳科学者の方と色々なお話をしていきたいものです。

 

 

 それではまた